『返事はいらない』 宮部みゆき

 「返事はいらない」
 宮部みゆきの社会派小説の原型かと思わせるような作品。銀行の杜撰なシステムと、それを突いた犯罪の話。現在はどうなっているのかは分からないが。宮部みゆきは、移ろい行く心理の描写をそれだけに終わらせずに、物事をかぶせて表現するのが上手い。
 千賀子のような振られ方は、よくあるのではないかな。男にとって、あまり自分に合わされる事は時に負担かもしれない。

 「ドルネシアにようこそ」 
 バブリーな話ではある。
 主人公の伸治が暗い。解説では褒めていたが、どこかきっちりと心に響かなかった。これは、『火車』の原型か。クレジットカードで身を崩す女性が描かれていたが、特に結末を儲けた訳ではなかった。

 「言わずにおいて」
 この短編集では白眉だった。最後の、全てを見透かしていた様な結末はちと不自然だったが、聡美の上司に対する啖呵の切り方が小気味良い。その上司との関係も。主人公の心理の変化を追う内容に、それとは関係ない事件を重ねて最後に全てを収束させるこの手法は好きだな。

 「聞こえていますか」 
 盗聴。家族を盗聴したりするものだろうか。嫁姑の関係というのは、どうも苦手だ。イマイチ実感が湧かないし、実感が湧くようにはなりたくない。それに翻弄される少年ものとしては良いのだが。

 「裏切らないで」
 これも、火車の原型。つくづく、このころの宮部みゆきはこの事に興味があったのだなと思う。しかし、これもバブリーな話。女性の若さに対する執着は、そんなにも凄いのだろうか。いや、執着は分からないでもないが、嫉妬はちょっと分からない。そんな理由で人は人を殺すのだろうか。

 「私はついてない」
 最後が一番軽い話。彼氏の親が来るというのに指輪を無くした、という古典的なドタバタ劇。それを助ける少年の彼女の話の方が興味があったかも。

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